小学生の頃に読んだときは、博士という人物と作中に登場する数式の印象が強く残っていた。大人になって読み返すと、中心にあるのは数学そのものよりも、主人公の「私」が博士や子どもとの関わりの中で抱く、家族愛や性愛とは少し異なる慕情なのだと感じた。
博士は、自分の中にある数学者像とはやや異なり、数学者としての描写に表層的な印象を受ける部分もあった。一方で、その数学者らしくなさも含めて人間らしさが詰め込まれており、愛らしい人物として描かれている。数や数式の性質は作者の数学への憧憬を感じさせる一方、ときに説明がくどくも感じられた。ただ、そのくどさが物語から浮くのではなく、むしろ独特のスパイスとして働いている。数学を入口にしながら、人と人の間に生まれる静かな情を味わう作品だった。